微熱の島 台湾

岸本葉子『微熱の島 台湾』、凱風社、1989

これは岸本葉子の二冊目の本。図書館に入っているものの中では一番古く、前に読んだ『なまいき始め』よりこちらの方が早い。しかし、『なまいき始め』よりはるかにきちんとした文章で、内容もまとも。勝手な想像だが、『なまいき始め』の方は、学生っぽい雰囲気を出すためにわざと文体を幼くするように言われたのではないか?

岸本が中国に語学留学した後で、台湾に行ってきた旅行記。入国を飛行機ではなく、那覇から石垣島経由で基隆へ行く船を使うという変わったルート。この船便は二泊三日を要し、乗客は荷物の多い人、つまり行商人。観光客や商用であってもいわゆるビジネスマンの使うものではない。これは一度乗ってみたいルート。しかし沖縄に住んでいる人はともかく、台北に直行便が出ているのに一度沖縄に行って船に乗ると、時間もお金も格段にかかるな・・・。

この本が貴重なところは、戒厳が解除されてまもないころの台湾のようすを記録していること。大陸に親戚のいる者には渡航許可が出ているが、まだ多くの人は大陸の状況は知らない。自分はちょうどこのころ大陸中国に行ったが、改革開放がはじまってだいぶたっていたとはいえ、中国はまるっきり田舎で、ただの発展途上国だった。台湾はそれに比べればかなりましだったはずだが、岸本の文章を読んでいると、台湾も相当田舎に感じられる。台湾に滞在していたのは、1988年に二週間、1989年に一ヶ月。それなりに長く滞在していたことと、中国語ができることもあって、都市部だけでなく、少数民族の住む山地や離島にもまめに行っている。

今から二〇年前のことなので、日本に対する関心の持ち方も違う。日本のポップカルチャーのことなど誰も知らないわけで、35歳以下の若い層は日本に特別の関心はない。55歳以上、つまり日本敗戦時に小学生以上で日本語と日本統治の記憶がある層が日本に対して関心をもっている。関心の持ち方は親近感と敵対感に二分され、それはほぼ本省人外省人の区別に対応しているという。

旧日本軍兵士による補償要求、霧社事件、日本人による売春目的ツアーのような、聞き方も書き方も難しいような問題もちゃんと聞いてきて書いている。書き方は、糾弾調ではなく、高飛車でもない、抑えた筆致で好感が持てる。

日本人観光客が行かないところの話がほとんどで、読んでいておもしろかった。ちゃんと内容があるし。裏表紙の扉に岸本の写真があって、さすがに若々しい。当然美人。この本には書いていないが、きっと中国でも台湾でももてただろう。いいねぇ。