花神 総集編 第四回

花神」、総集編 第四回 「徳川を討て」、NHK、1978

この回でやっと蔵六=中村梅之助が話の主役になる。編集の都合とはいえ、第二回、第三回で蔵六が後方に引っ込んでいるのは見ていて歯がゆい。

桂小五郎米倉斉加年が長州に戻ってきて、蔵六を上士として引き上げる。ここで蔵六は改名して大村益次郎に。むりやり改名の由来を求める藩の役人や、改名にともなう面倒をいやがる父親らとの芝居がおもしろい。

そして益次郎とイネがひさしぶりに再会する。学問の理を説く益次郎に対して、自分の感情はそういう理屈で納得させるものではないと敢然、益次郎の言を否定するイネ。益次郎は完全に返答に窮してしまう。この場面の梅之助と、浅丘ルリ子の芝居はすばらしい。そして、ひとりイネを置いて去る益次郎は、家に戻ると妻のお琴=加賀まりこが病で寝込んでいたことを知り、罪滅ぼしもかねて、家宝にしていた朝鮮人参を与える。ここは原作にあったかな?脚本がよく出来ていて、益次郎の性格がうまく表現されている。話の本筋ではないが、この回の一番見どころになる場面。

それから登場するのが坂本龍馬。演じているのは夏八木勲。いろんな龍馬役の中でも、夏八木勲はかっこよすぎず、それなりに頭が切れ、イモっぽくてなかなかよし。龍馬がミニエー銃の売却と薩長同盟の周旋をしたおかげで、長州藩の戦争準備が整うようになる。

この回のハイライトである第二次征長戦では、益次郎が才能をいかんなく発揮する。梅之助のくそまじめな説教調の台詞は、およそ軍の指揮官っぽくないが、学者軍人としての益次郎のキャラが立っている。戦争の場面は、ちゃんと古めの銃(考証上正しいかどうかはわからない)が多数出てきて、それっぽい戦闘になっている。欲を言えば、戦闘の様子をていねいに図にしてほしかったけど。

最後は高杉晋作の死。結核にかかって死相が出ているところで、辞世を詠むところは、晋作が上の句を詠んだところに、草笛光子=野村望東尼が下の句をつぐという設定になっている。

番組が終わった後に梅之助のインタビューのビデオがついていて、益次郎が酒の猪口を三本の指でつかんでいるのはなぜかと他の俳優に尋ねられ、「原作に一行、そう書いてあります」と答えたところ、相手にいたく恥じ入られたというエピソードを話していた。台本だけでなく原作をきちんと読み込んで人物像をつくることにどれだけ真剣かということを誇りにしているようす。