ガス人間第1号(舞台版)

「ガス人間第1号」、高橋一生中村中三谷昇伊原剛志ほか出演、脚色、演出、後藤ひろひと、日比谷シアタークリエ、2009

これは、「ガス人間第1号」を舞台化したものが去年の10月に日比谷シアタークリエでかかり、それが今年の2月にNHK教育の「劇場への招待」で放送されたものを録画したまま放置していて、それを今頃になって見た、というもの。最近、こんなことばかりである。

昔の特撮映画を今頃リメイクしてもろくなことが起こらない、というのはゴジラシリーズでイヤと言うほど思い知らされていたのだが、案に相違してこの作品はおもしろかった。

背景は現代に移し替えているが、キャストとあらすじはだいたい映画と同じ。ガス人間=土屋嘉男が高橋一生、藤千代=八千草薫中村中。この二人ははじめて見た人だが、非常によい。特に八千草薫の役(舞台では、歌手「藤田千代」に変えられている)にあてられていた中村中。不思議な雰囲気のある美人だが調べてみると、なんと肉体的には男である。まあ言われなければわからない。音楽もこの人の自作の曲が歌われていて、これがなんともいえずよい。映画の何もしない藤千代とはちょっと違い、こちらは少しアクティブな役柄にされているが、この役者には非常によく合っている。他の芝居にも出ているらしいが、この舞台の出来の良さは半分近く、この役者のおかげだと思う。

他のキャストもとても豪華な配役で、じいやの役を三谷昇がやっているし、三橋達也(刑事)を伊原剛志、その相棒の記者を中山エミリ、そして映画にはない役で水野久美が出ている。この水野久美が話の語り手のような役になっていて、ラストシーンがちょっとひねってある。このひねり方もなかなかよい(ちょっと「マタンゴ」の要素も入っていると思う)。

脚本はけっこうコメディ色が入っていて、南海キャンディーズの山ちゃんとかも出ているが、この改変もうまくいっていると思う。舞台をあきさせずに見せている。脚色、演出の後藤ひろひとが、原作映画と昔の特撮作品をよく見ていることのおかげだろう。

事前に知っていれば必ず舞台を見にいったのに、と、実演を見なかったことが惜しまれる佳作。