HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン

「HEAVEN 都築響一と巡る社会の窓から見たニッポン」、広島市現代美術館

この月曜日まで、現代美術館でやっていた展覧会。ポスターやチラシにぬいぐるみや布きれをたくさんかぶった変なおじさんが写っているのだが、よくみると広島太郎でした。まあ、広島太郎と言えば広島市にいる人でおよそ知らない人はいないというくらい有名なホームレスなのだが、こうやって展覧会のチラシにでかでかと出てくると、言われるまでわからないものである。

展覧会の中身は、都築響一がいままでにしてきた活動全般を紹介する個展。「遊行するこころ」という題で、日本国内の珍スポットが、「巣ごもりするこころ」という題で、個人の変な部屋が、「我が道を行くこころ」という題で、強烈な個性を発揮する変人が、ほかにもいろんなものの写真(一部は実物)が、都築響一自身の長い紹介文といっしょに並べられている。

都築響一は、「自分はアーティストではなく、ジャーナリスト」と言っている。つまり、「自分は日本のおもしろいものや人を伝えているのだ」というメッセージ。これは確かに「超芸術トマソン」と通じ合うものがあると思う。「トマソン」は、「不動産にくっついた無用の建築物」というしばりがあるので、厳密にはこれとは違うが、都築響一が探しているものは、「生きている、あるいは死に絶えつつある、町の超芸術家たちがつくっているものたち」である。

どれもインパクトは強烈で、ものに埋まった個人の部屋とか、大金を手にして大学教員を退職し「女装子」になった人とか、とにかく写っている人やものの主張が圧倒的な力で伝わってくる。こういうものをどういうルートで発掘してくるのかと不思議でしょうがないが、とにかくまめに探して、後は人づてで情報が伝わってくるみたいだ。

自分として一番響くものがあったのは、ひとつは「秘宝館」。関西地方で一定以上の年齢だった人は、伊勢の「国際秘宝館」のコマーシャルを覚えていると思うが、あれも2007年で閉館になってしまったそうだ。わたしは10年以上前に一度行ったが、すでにその時点で相当寂れていた。ここでは鳥羽にあった「未来秘宝館」というSFと秘宝館を合体したコンセプトの施設にあった展示品が実物で並べられていた。このコーナーだけ18禁(そりゃそうだ)。搾乳機みたいなもので精液をしぼりとられる男のマネキンとか、男性器と女性器を両方持っているので、自分でイケる未来の人間とか(両性具有ってそういうものとは違うと思うけど)、とにかく笑うしかないようなものが暗い室内に並べられている。秘宝館もほぼ絶滅状態にあるので、実物がこういう形でしか見られないだろう。

もうひとつ、響いてきたのは、「スナック」。スナックは日本で一番多い(たぶん)はずの飲み屋だが、ガイドブックの類には一切紹介されないし、宣伝もされないので常連客しか知らないところだ。スナックは酒と乾き物くらいしかおいてないし、あるものといえばママかマスターとカラオケだけ。それで営業が成り立っているのは、常連客とママやマスターの人柄しかない。初見の客を入れない店も多い。そもそもスナックは自分の店を宣伝して欲しいとか、あまり思ってないし・・・。こういう店を取材するだけでもけっこうな労力だと思うが、都築響一は修行僧のようにスナックを回り続けているのである。

この展覧会には期間中3回行った。内容はだいたい都築響一の本に収められているので、それを買うか借りるかすればいいのだが、「ラブホテル」「秘宝館」「イメクラ」といったようなものの写真集は図書館にはないので、買うしかない。わしわしと買って家に持って帰ってきた。中でも「ゲーセン」の写真集がゲットできたことが大収穫だった。