太平洋戦争のif

秦郁彦(編)『太平洋戦争のif 絶対不敗は可能だったか』、中公文庫、2010

2002年にグラフ社から刊行されていた本を文庫化したもの。「絶対不敗態勢は可能だったか」「関特演」「真珠湾攻撃」「アフリカ侵攻」「ミッドウェー海戦」「重慶侵攻」「ガダルカナル戦」「レイテ湾海戦」「日本本土決戦」「米本土上陸戦」のテーマをとって、実際の歴史が異なるものになっていた可能性を考えるif本である。

といっても、著者はそれぞれ歴史家や作家でそんなむちゃな想定は立てていない。あくまである程度納得できる範囲での想定変更。真珠湾とミッドウェーは戦争当時の「海大方式」による図上演習を実際にやってみて、その結果が書かれている。このゲームにもう亡くなった東大の関寛治が参加しているのがおもしろい。まるっきり平和主義で固まったひとかと思っていたら、こういうことにも興味があったのね。

一番肝心な「絶対不敗態勢は可能だったか」を読むと、戦争を2年か3年引き延ばすことは可能だったかもしれないが、その間にドイツが負けてしまえば結果は史実と同じことになるという結論。まあ、確かにそうだろう。

最も真実さを感じるのは、「日本本土決戦」の項。ここは架空戦記ものをたくさん書いている檜山良昭が執筆しているが、小学生まで動員してバタバタ人が死に、松代大本営が陥落するまで戦闘が続けば、数百万どころか数千万の追加的な死傷者が出てもおかしくないというおはなし。軍の強硬派の意見が最後まで通れば実際にあり得た話だから、それに比べれば死傷者があれだけで済んだだけでもラッキーだ。

真珠湾とミッドウェーは、図上演習のやり方がわかっておもしろかった。最低3部屋と15人から20人くらいの人が必要な大規模なウォーゲームである。昔ゲームのサークルに入っていたので、一度は大規模な集団単位のシミュレーションゲームをやってみたかったのだ。

どの章も読み応えがあるわりに、すらっと読めて楽しい。とても堪能できた本。