日本文化論のインチキ

小谷野敦『日本文化論のインチキ』、幻冬舎新書、2010

小谷野先生のメッタ斬り、「日本文化論」編。一時よく流行っていた「日本文化論」の有名本のほとんどがばっさばっさと斬り捨てられている。著者によれば、「日本文化論」のほとんどは、他国文化(特に近隣アジア諸国のそれ)を知らない、日本の近世以前の文化を知らない、比較の対象を間違えている(特定の階層にしか見られない現象を普遍的なものに仕立て上げている)等々、比較文化論として成立していないのである。

もう著者が亡くなっている「名著」だけでなく、著者が存命の本でも容赦なく袈裟懸けにされている。最後の章でのラフカディオ・ハーンをネタにした大殺陣では、著者の師匠平川祐弘が斬りまくられている。この二人はほぼ義絶状態で、もうこうなっては師弟関係も何もないだろうが、学者業界でこうなると本人にもそれなりの「被害」はあるだろうことは想像がつく。しかし著者の舌鋒はいっこうにおさまらないのである。

それにしてもこれだけの批判を行うには、著者ほどの博識がなければできることではなく、およそ分野を問わず、古代以来の日本文学から、西洋、アジア関連の本、一般人は読まない学術論文まで、博捜している著者の学識にはあいかわらず圧倒される。マックス・ヴェーバーまでめった斬りにするには、このくらい読んでいなければならないのかと嘆息。

いつもの小谷野節も遠慮なく全開にされていて、そっちの方も(これまでの本とかぶっているところもあるが)非常に楽しめる。文化論について、なにがしかの一般論を口にしてしまう人には必読の一冊。