天皇陛下の全仕事

山本雅人『天皇陛下の全仕事』、講談社現代新書、2009

新書版だが、けっこう厚い本。天皇陛下の仕事について、国事行為、公務から、祭祀、外国訪問、地方行幸など、およそ天皇陛下の仕事と考えられているものについて、網羅的にその内容をまとめている。

とにかく、これは激務だ、というのが第一の感想。法律や勲記の授与についても、天皇陛下は単純にまわってきた書類に署名しているのではなく、内容に目を通しているのである。本書の中に、勲記に添えてあるべき書類がないことが陛下から指摘されて、あわてて書類を直したエピソードが出ているが、膨大な量の法律などにいちいち目を通しているとかんがえるだけでも驚く。

また、外国訪問、地方行幸などの外出行事も分刻みでスケジュールが立てられ、それに従って行動しなければならない。下々の物見遊山の旅行とは違うから、見たいところをのんびり楽しむというようなものではないのである。疲れているから、他の人が話しているところで居眠りするというようなこともできないだろう。これが土日祝日関係なく、やってくるのである。しかも天皇陛下には退位と言うことがないので、高齢のために国事行為代行を立てるとか、いよいよからだが動かなくなって摂政を立てるというのでなければ、これが一生続く。常人の忍耐力では出来ないことである。

著者は、調べられる限りのことを調べ、必要な人にもインタビューをとった上で書いているので、資料的価値は高い本であるが、あえて難を言うとすれば、「宮中祭祀」についての記述が比較的手薄なところである。元皇族による著作を読んでいると、宮中祭祀天皇にとって最重要と見なされている(少なくとも天皇家内部では)ので、その準備や集中もたいへんな労を要するという。ここは外部の人間にはなかなかあずかりしれないところなので、この本でもこれだけしか書いていないということ自体が、このことを取材することの困難さを示しているのだろう。

いずれにせよ、天皇の日常生活がどのようなものであるかということをまめに調べた良書。