NHKスペシャル 「無縁社会~”無縁死”3万2千人の衝撃~」

NHKスペシャル 「無縁社会~”無縁死”3万2千人の衝撃~」、2010.2.2

1月31日日曜日に放送されてけっこう反響が大きかったらしいこの番組。2月2日火曜日の深夜に再放送があったので見ることができた。

「無縁死」というのはこの番組での造語で、引き取り手がなく、自治体で埋葬、処理が行われる死亡者のこと。これが2008年で3万2千人いたのだという。総務省統計局の数字だと2006年の日本の死亡者数は108万4千人あまり。2008年には当然増えているので、おおよそ110万人程度か。死亡者数の約3%程度が引き取り手のない「無縁」だというのは思っているよりは多かった。ここでまず驚いた。

この3万2千人のうち、1千人は身元がまったくわからないのだという。官報で告示される「行旅死亡人」の記事から、ある死亡者の生前の生活を追いかけていく。

行旅死亡人」というのは行き倒れのことだと思っていたが、実はいわゆる行き倒れでなく、自宅で死亡している場合でも、身元がわからない場合には行旅死亡人としてカウントされるのだという。これも知らなかったので単純に驚いた。

番組では自宅で死んでいて行旅死亡人扱いになっていた「小林忠利さん」という人を取り上げているのだが、身元がわからないという割にアパートの大家にあたって契約書を探したら名前やら本籍地やらはすぐに判明。要するに、事件性のない死亡者の身元は警察も自治体もわざわざ探していないので、結果として行旅死亡人になっているという話。官報の記事でも、所持品に「預金通帳、キャッシュカード、住民基本台帳カード」とちゃんと書いてある。役所もヒマではないのでたいした手間ではなくても、そこまで調べないのね。

引き取り手がない死亡者の部屋を片付け、遺品を整理する専門の清掃業者「特殊清掃業」という仕事があることもはじめて知った。まあこれだけ自殺者も出ているんだし、普通の引越屋がする仕事ではないから、専門の業者もできるのだろう。

次は他のケース。こちらは家族がいるのに誰も引き取らず、遺体は大学病院に献体として提供され、解剖待ち。献体の承諾書にサインしているはなんと死亡者の兄で、「親が亡くなってから弟とは交流がなく、自分の生活にも余裕がないので大学病院にひきとってもらうように頼んだ」という。これはナレーションだけだったので、撮影は断られたのだろう。まあそりゃこんなことでテレビに出ようとは思わないでしょう。

その次はまだ死んでいないが、50台で離婚し、定年退職後すぐに老人ホームに入っている人のケース。この人は大手銀行(三菱系らしい)で働いていたようで、金銭的には余裕があるから老人ホームに入れたのだろう。それでも家族とのつきあいはないらしい。仕事に没頭して、家族関係がおろそかになっていたというもの。インタビュー中、本人が嗚咽して言葉が出てこない。

その次は「生涯未婚」のケース。79歳の女性で元看護師、結婚歴なし、独居生活。自分が死んだら墓に入れてもらうといって、ぬいぐるみを大事そうにしているのがせつない。NPOで設置している共同墓地を予約しているのだそうだ。

しばらく前に見たデータでは生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)は男で15%、女でその半分だったが、2030年にはこの数字は男の三分の一、女の四分の一になっていると予測されているのだそうだ。

その次はこれも家族で引き取り手がないまま死んでしまって自治体が火葬したケース。留守番電話に姉の声だけが入っていて、カメラが北海道に住んでいる姉のところに訪ねていく。10年間会っていなかったというが、それでも物を送ったり、電話をしたりすることはしていたらしい。

最後は行旅死亡人だが、近所の子供とは付き合いがあったケース。といっても、この近所の子供にあげたというアルバムは昭和49年の日付になっている。当然この子供もいまは成人である。この子供との交流を思い出にして生きていたらしい。

番組はこういう社会から孤立して生活したり死んだりする人の問題を、「社会問題」にするという観点でつくられているのだが、どんなものでしょう。未婚者が増え、子供が減っているのだから、死ぬときには係累がなくなっているということはあっても不思議ではない。考えてみれば、死亡者の3%が引き取り手がないというのは、数字としては少ないくらいでこれからはもっと増えるだろう。

そういう状態で、人間関係のメンテナンスをちゃんとしておくというのは社会の責任というより個人の責任という気がするし、社会は死ぬ時の面倒など見てくれはしないのである。そもそも人が死ぬ時って、かりにそばに誰かがいたとしても、結局一人なのではないかと思うけど・・・。