斉藤家の核弾頭

篠田節子『斉藤家の核弾頭』、新潮文庫、2001

これはなかなかおもしろかった。家族と人間のプライド、社会と個人の関係等々といったネタを盛り込んだ社会SF。2075年の日本。「国家主義カースト制度」によって、能力別にクラス分けされ、所属するクラスごとに管理されている社会。主人公の総一郎は、最上位の特A級にいる最高裁判事だったのが、裁判が自動化されて判事はいらなくなり、さっさとクビ。都心の一戸建てから、湾岸地区のニュータウンに移住させられるが、その後の政府による仕打ちとその背景にある事実を知るにつれ、秩序の権化だったような総一郎は原子炉と核爆弾を作って政府と戦うことを決意・・・というような話。

最上級のエリートだった総一郎がどんどん転落していくさまと、それをさめた目で見ている妻の対比がおもしろい。妻は従順で家庭的というだけの理由で下のクラスから嫁いでくるが、ダンナが没落し家庭がめちゃくちゃになってくるにつれ、いつまでも黙っていられなくなってくる。総一郎が政府に刃向かったことで英雄に祭り上げられていい気になっているのに、ぜんぜん反応しない妻の描き方が好き。

それからホルモン異常とその後の化学物質の投与で、普通の人間より異常に早い時間で成長し、老化する娘が、物語の展開上、けっこう重要な役になっていて、このキャラづくりが上手いと思う。物語の終盤までは乳幼児という設定なので口もきけないのだが、存在感がありまくり。

原子炉や核爆弾をつくるくだりは、まあちょっと勉強が足りないというか、ろくな遮蔽なしに素人がそのへんの工作機械を使ってそういうものを作るのはいくら2075年といえどもムリでしょう、と思うが、物語の構成上はそんなにキズにはなっていない。それより、豊洲への市場移転を連想させる、強引な政府の移住計画や、社会的に用済みになった人間を実験台に使う構想、上訴を認めない、即決裁判のような裁判制度など、ブラックな小道具が効いている。わりと一気に読まされた。