空の羊

向田邦子新春シリーズ「空の羊」、田中裕子、小林薫加藤治子ほか出演、久世光彦演出、TBS、1997

これは前年の作品に続いて、このシリーズでの佳作。例によって、女ばかりの一家が主人公で、加藤治子が母、長女(夫は戦死)田中裕子、次女戸田菜穂、三女田畑智子。偶然この一家に落語家の小林薫が入り込んできて、それからいろんな出来事が起こるというもの。

小林薫が前作の悪役から一転、善人役になるのだが、役柄が落語家である。当然落語が語れなければいけないし、最後にはかっぽれを踊っている。これが堂に入っていて、不自然なところがぜんぜん感じられないところはさすが。このとき45歳くらいか。何をやらせても上手い役者だ。

田中裕子、加藤治子のいつものコンビは安定的な芝居。田中は最初、小林を受け入れなかったのがだんだん心を開いていく役だが、男女関係とも兄妹関係ともつかない微妙な距離をよくつかんでいる。戸田菜穂もなかなかいいのだが、さらにいいのが田畑智子。吃音癖のある娘が小林のおかげで「寿限無」をつっかえずに言えるようになる、という役だが、子供の微妙な気持ちの揺れをきちんとやりきっている。このシリーズでは出演2作目、実年齢は16歳だが、12,13歳くらいのこの役でも完璧な演技。子役から出来上がっていた人だったんだなあ。

わたしは向田邦子の小説はほとんど読んでいないので、原作から完成度が高いのか、脚色がきちんとしているからなのか、いまひとつよくわからない。脚本は金子成人。まあこのシリーズのほぼ全部の執筆者なので、出来が安定しているのは当然なのだが、「俺たちの祭」以来、好きな脚本家である。今度向田邦子の小説もちゃんと読んでおかなければ。