女正月

向田邦子新春シリーズ「女正月」、田中裕子、加藤治子南果歩小林薫ほか出演、久世光彦演出、過ノックス、TBS、1991

向田邦子新春シリーズの91年作品。このシリーズの中でも非常によくできている作品だと思う。

田中裕子は会社の同僚に無理心中を迫られて半死半生になった過去があり、それを隠して結婚している。そこに妹の南果歩が結婚相手と称して小林薫を連れてくる。加藤治子小林薫に不吉な影を感じて、この縁談にあまり乗り気でないのだが、その予感は当たっていて、小林薫は実はとんでもない男だった・・・というような話。

小林薫が、女にだらしない、左翼を装った特高のスパイで、人格的に完全にダメになっている男を好演している。この男に一家が浸食されていくお話なのだが、南果歩とか風吹ジュンとかいかにも男にダメそうな女がひょいひょいとたらしこまれ、田中裕子にもそうした男を引き寄せてしまう影がある、という筋書きが退廃的でとてもよし。まだ小娘っぽい渡辺満里奈もひっかけられそうになって、この下りもよく書けている。加藤治子は、いつもの存在感で、死の淵から田中裕子を助け出す。うまいなあ。

バックにワーグナーの「トリスタン」の「愛の死」のところがずっとかかっているのだが、これって、相思相愛状態での情死の音楽なのだから、ここでかかるのはちょっとおかしいのでは?と思っていた。しかしよく考えてみると、男を死に引き寄せているのは、実は田中裕子の方でもあるので、ちょっとねじれているけど、これはこれで辻褄が合っているのである。