誰が太平洋戦争を始めたのか

別宮暖朗『誰が太平洋戦争を始めたのか』、ちくま文庫、2008

太平洋戦争の開戦責任論。基本的な主張は、官僚機構(陸海軍の統帥部)が作戦計画(この場合にはハワイ攻撃計画)を立て、政府(陸海軍省含む)は統一的な決定ができないまま、作戦計画に引きずられて開戦してしまった、というもの。

海軍部内の三国同盟反対派=条約派が、ハワイ作戦策定の責任者で、彼らを動かしたのはアメリカのヴィンソン案成立による、軍事バランスの劣勢化への恐怖だった、という話はまあそうだろうという感じ。実際、陸軍は対米戦についてほとんど無策で海軍任せになっていたわけだし。

しかし、海軍がどんな作戦計画を立てようが、それが陸軍や外務省ほかの部局を納得させるだけの論理を持たなければ開戦はできないわけで、その点は疑問。特にハワイ作戦は外部には徹底的に秘匿されていたわけで、他部局を説得する材料には使えない。海軍が「勝てる」見通しを出さないのに、なぜ他部局が交渉放棄、戦争への道を決断したのか、結局よくわからない。むしろ著者は海軍の開戦への影響を大きく見積もりすぎているのではないかという気がする。

もうひとつわからないのは、なぜ海軍が「英米不可分論」から離れられなかったのかという点。著者自身は、英米不可分論はアメリカの政策決定を理解しない無知から来た謬論としているので(確かにそれはそうだろうと思う)、ならばなぜ海軍があくまで対英米先制攻撃に固執したのか、ちゃんと説明してほしいと思う。

とはいえ、永野修身の役割や、昭和天皇の開戦経緯についての理解など、いくつか参考になる点があったのは確か。読んで損をする本ではない。