文楽 「一谷嫩軍記」 熊谷桜の段 熊谷陣屋の段 、「紅葉狩」

文楽 平成二十一年三月地方公演 「一谷嫩軍記」 熊谷桜の段 熊谷陣屋の段 、「紅葉狩」、アステールプラザ中ホール、2009.3.6

二部構成の昼の部。文楽は実物ははじめてなので、とてもたのしみにして出かけたが、期待を裏切らぬよい舞台だった。

「一谷嫩軍記」 熊谷桜の段は、大夫が竹本三輪大夫、三味線が野澤喜一朗、熊谷陣屋の段は、前が豊竹咲大夫と鶴澤燕三、奥が竹本千歳大夫と野澤錦糸。人形は、熊谷直実が吉田玉女、相模が吉田和生、藤の局が吉田文司、義経が吉田勘弥。

床本を予習していったのだが、見てから言えば、予習はあまりいらない。というより、床本を読んでいっても、それで大夫の語りが全部わかるかと言えば、わからない。それでもだいたいのことは理解できるし、あらすじだけ頭に入っていれば十分である。座席も明るいので、どうしても語りをぜんぶ理解したければ、劇場で売られているプログラム(床本の内容は全部載っている)を広げて首っ引きにすればよい。実際は、人形か大夫と三味線にずっと注目しているほうが楽しめる。

昼公演は8分の入り。まあ仕事を休んでいる人以外はおじいさんとおばあさんしかいないのだから、こんなものでしょう。席は舞台下手側、6列目くらい。大夫、三味線からは反対側だが、人形は非常に良く見えた。

「一谷嫩軍記」はつくりの複雑な芝居で、理解するのがむずかしい。初見では芝居の構造を全部つかめなかった。今回の公演では、熊谷桜の段もかかっていたということは、この芝居のしくみを客がよりよくわかるようにするための配慮だろう。しかし、お話が非常によくできていることはわかった。最後に義経を真ん中に、熊谷夫婦と藤の局、宗清が左右に分かれていくところは、堂々たる幕切れ。思わず涙がこぼれた。

大夫と三味線は、熊谷陣屋の段の前、咲大夫と燕三の組み合わせがやはり一番すばらしい。義太夫節は音曲の司という言葉がしみじみと胸に響くような語り。千歳大夫と錦糸のほうも一歩譲るとはいえ、聴かせてくれた。

「紅葉狩」はすなおに楽しめる舞台。このあたりでは、神楽のスタンダードな演目なので、客は話は何度も見ていると思う。お姫様と鬼女の対比が、目に美しい対比。三味線三本の合奏が耳に心地よい。

休んで見に行って本当によかった。夜の部は次に。