「問い」から始まる仏教

南直哉『「問い」から始まる仏教 「私」を探る自己との対話』、佼成出版社、2004

著者は『なぜこんなに生きにくいのか』で、「自分の本はわかりにくいと言われる」と書いているが、この本は非常に内容がクリアーな本である。思想系の本を全然読んだことがない人にはさらっと読めないかもしれないが、内容が内容なのでそれはしかたがない。しかし、衒学的なところはないし、主張も文章も明快である。

対話形式で書かれているが、著者によれば、仏教そのものが対話的な構造をもっているという。読んでいくと、そうした著者の考えはよくわかる。著者によれば、「「自分」を含むすべてのものそれ自体に存在根拠を認めず、「非己」との関係から生起する縁起的存在として自覚すること、そこから導き出せる「敬意」「慈悲」という実践の態度。ここに仏教者が学んで「なすべきこと」があるのであり、仏教の「善」を決めるものがある」(215頁)という。このことをいろんな言い方を使ってていねいに説明しているのがこの本である。

「縁起」「因果」の概念、座禅の仏教的な意義など、いろいろなことについて教えられるところが多かった。どのように「師」を決めるべきかについての著者の考えは、教員と学生の関係にも通じていると思う。著者は、伝統仏教がこれまで取ってきた、寺と家とのつながりから、教えや行法を通じて僧侶と信者がつながる形に、日本仏教を変えるべきだと言っているが、要するに日本仏教も普通の宗教教団として生まれ変われ、と言っているわけである。なまなかにできることではないだろうが、著者の決意に何か自分でもできることがあれば、と思う。