金融権力

『金融権力 グローバル経済とリスクビジネス』本山美彦、岩波新書、2008

サブプライムローン破綻以後の経済危機の解説本。大学でちゃんと経済学を履修していない人でも、ある程度のことはわかるようになっている。説明はていねいなので、そういう部分は便利な本。

しかし、著者は「自由市場を擁護する人々に対して敵意を持つ人々」にまるっきり傾斜しているようで、この本は規制緩和やグローバル市場化に対するほとんど感情的な敵対的態度にあふれている。経済学がいかに机上の理論で現実を見ていないか、金儲けのために社会を振り回しているか、といったことを強く非難する。それはまあいいとして、それに対して著者が持ち出すものが、「人間を大事にする経済」「金儲けはそれ自体悪である」という程度のもので、噴飯せざるをえない。

規制の方法が間違っていたというのであれば、どのような規制の方法があるかを論じるのが経済学者としての責任だと思うが、著者が持ち出すものは、プルードングラミン銀行イスラム金融、ESOP(従業員持株会の別バージョンのようなもの)といった代物である。この程度のものが市場経済や資本主義に対する代案またはその問題点を修正できる解決策になると、本気で思っているのか、著者の頭の程度を疑うが、まあこの人はもともとそういう人なのであまり文句を言ってもしかたがないか。