東京五輪音頭

東京五輪音頭」、十朱幸代、山内賢三波春夫ほか出演、小杉勇監督、日活、1964

十朱幸代が、オリンピックの水泳選手候補ということで出てくる映画。しかしオリンピックを想像させるアイテムがほとんど出てこない。水泳の選手といいながら、練習の場面もあまりないし。全体的にオリンピックはあまり関係ない感じ。まあ、いくら商業化される前のオリンピックとはいえ、勝手に映像やら何やらを使うわけにはいかなかったのだろう。かろうじて、飛行機が五輪の飛行機雲を描くのと、三波春夫先生の東京五輪音頭(これは数百人のおばちゃんが歌にあわせて踊っているシーンがおまけでついてくる)が、オリンピックを思い起こさせる程度。

三波春夫先生は、本人役と、本人にそっくりな寿司屋の大将役の二役で登場。この映画、内容もストーリーもほとんどどうでもよく、見所は、三波春夫先生が何の脈絡もなく本人役で登場し(それまではただの寿司屋の大将)、いきなり「俵星玄蕃」を歌い出すところにある。いまやこの歌を歌う人もろくにいなくなってしまい(島津亞矢のはちょっと・・・)、それより何より忠臣蔵のドラマにすらほとんど出てこなくなって、時代劇ファンですら「俵星玄蕃って誰」といいかねないことになってしまったが、この歌はめちゃくちゃかっこいい。

「おりしも一人の浪士が、雪を蹴立てて、サク!サク!サクサクサクサク!先生!おう、そば屋か!」のくだりには誰しもしびれないではいられない。いまどき演歌もすっかりメロディー中心で、浪曲の語りが入ったものはまるっきりはやらないからなあ。この歌はフルコーラスで入っているのだが、この場面だけで、映画を見たかいがあるというもの。

ちょっと調べてみたら、この年1964年はちょうど「俵星玄蕃」が出た年だった(だからストーリーに関係ないのに入っていたのである)。後年の歌唱はYouTubeにも入っているのだが、この最初期の歌唱は円熟した後年のものとは違ったキレがある。日本人たるもの、必見である。

あとは山内賢がブラジルに移住というエピソードが新鮮。このころでも南米移住という話はまだあったんですね。