金日成のパレード

金日成のパレード」、佐藤慶(日本語版ナレーション)、アンジェイ・フィディック監督、ポーランド、1989

この映画のVHS版が近所のレンタルビデオ店にあったのだが、近頃のDVD移行のあおりでいつのまにか消えてしまった。とはいえ、DVD版は安値(3800円)で売られているのでアマゾンで簡単に買えた。よかったよかった。

1989年、東欧社会主義体制が一斉にひっくり返ったこの年、北朝鮮は建国記念40周年と称するあいかわらずのバカ騒ぎで盛り上がっている。今から20年前の映像といっても、町並みにも、キチガイじみたマスゲームにも基本的に変化は見られない。違いと言えば、参加者100万人と称する大パレードである。もちろん実際の人数は数えられないが、とにかくめまいがしそうなほど、ものすごい数の人が出てくる。ステップには全く狂いがなく、かなりの練習を積んでいないとこの動きはできないだろう。中国映画「大閲兵」を思い出させるが、こっちのほうには行進する人間の舞台裏などは出てこない。ひたすら「偉大な指導者金日成同志」「親愛なる指導者金正日同志」をひたすら賞賛する朝鮮人が次々と登場するだけである。この後、ソ連、中国からの援助が止まり、坂道を転げ落ちるように悲惨な羽目になった北朝鮮だが、この映画は全力で見栄を張れた最後の時期を撮影した貴重なものである。

この映像の裏側で何が起こっているかについて、映画は何も語らないが、テレビに配信される映像を見る限り、北朝鮮という国家の本質に変化はない。それは「存在自体がハリボテ」ということだ。パレードの山車に乗っている機械やトウモロコシ、機関車、ひたすら卓球のリレーをつづける選手、そういうものの存在を取り繕うことで成り立っている国が北朝鮮。他人に見せない中身がどうなっているかは二の次、三の次である。映画の原題は、「幸せの歌」。このタイトルをつけるセンスも相当さえているが、北朝鮮では今日のこの日も、外国人の前では「幸せの歌」が続けられていると思うと、感慨深いものがある。