ある北朝鮮兵士の告白

『ある北朝鮮兵士の告白』韓景旭、新潮新書、2006

脱北者の回想を、著者がまとめた本。ほとんどは軍隊生活についての記述で、それに脱北事情についての記述が少し付け足されている。内容的にはそれほど目新しいものはなし。ただ、主人公の半生が波乱万丈で、読み物としてはおもしろく、そこに出版価値があると思われたのだろう。軍隊に入隊して、実績を認められて軍官学校に行き将校になるが、さらに選抜されて金日成政治大学に行く際に成分を問題にされて失敗。自暴自棄になって軍を脱走し、盗みで捕まって原隊に連れ戻されて兵卒に降格。除隊時に部隊の政治委員と部隊の参謀長との争いに巻き込まれて、降等され炭鉱送りに。そこから脱北のブローカーのようなことに関わって、保衛部に追及され、自身も家族と中国に逃れる、というようなストーリー。

個々のエピソードは面白いが、おそらく紙幅の関係か、途中の部分がかなり省略されており、それは残念。脱北者の手記は、おもしろくするために日常的な部分やどうでもよさそうな部分が省かれていることが多いが、そういう生活の記述に実は価値があることが多いので(その分おもしろくはなくなるが)、著者はそのことにより配慮してほしいと思う。注はついているが、著者がそれほど北朝鮮事情に明るくないためか、一部混乱した記述がある。