アメリカに「NO」と言える国

竹下節子アメリカに「NO」と言える国』、文春新書、2006

言いたいことはわからないでもないが、ちょっと事実の誤りや認識のゆがみが多すぎて、首をかしげてしまう本。著者はフランスの「ユニバーサリズム」に対して英米(著者は「アングロサクソン」というが)の「コミュノタリスム」を対比させることに主な関心があるように思える。それはそれでいいのだが、「コミュノタリスム」の抑圧性が過度に強調されすぎている。フランスの普遍主義も見方によってはそれに劣らず抑圧的なのに。

著者はことあるごとに「アングロサクソン」とフランスの差異を強調するが、政治的にはともかく、文化的にはアメリカとイギリスはさまざまな点で大違いだ。だから、英米とフランスの政治的立場の違いを文化で説明しようとすることにはムリがあると思うが、著者はこの点に非常にこだわっている。特に善悪二元論キリスト教を持ち出す第二章は正直、読んでいられない。

他にも「日本が安保理常任理事国の拒否権を廃止する提案を出せばフランスは必ず賛成するはずだ」という著者の主張には「ほんとですか?」といいたくなるし、フランスの大統領と内閣の複雑な関係を賞賛する著者の主張には、それがフランス政治にどれだけ混乱を持ち込んでいるか、わかっているのかどうか問いただしたくなる。それに結論として出されている日本にユニバーサリズムの論理をもっと持ち込めという提案は、グローバル市場化以上に日本文化に対して破壊的な結果になるような気がするのだが・・・。