帝国のオーケストラ

「帝国のオーケストラ ~ 第2次大戦下のベルリン・フィル」、エンリケ・ランチ監督、ドイツ、2007

NHK BS2の「クラシックロイヤルシート」枠で8月31日に放送していたドキュメンタリー。この枠はいつも音楽だけを流していて、こうしたドキュメンタリーを放送するのはめずらしい。

原題は「ライヒスオーケストラ」で、戦時下だけでなく、ナチス政権成立から戦後にかけての時期のベルリンフィルの活動についての映画。当時の記録フィルムと、当時の楽員やその家族へのインタビューで構成されている。

楽員へのインタビューはいろんな意味でおもしろい。存命の人へのインタビューなので、当然ナチスには批判的な意見ばかりだが、楽団からのユダヤ人追放には「それに反対すれば楽団にはいられなかった」「楽員のほとんどは政治的な問題に関心が薄かった」ということになっている。一方、ドイツ敗戦後のナチ関係者の楽団からの追放については、「オーケストラの自浄作用が働いた」といっている。まあ誰にとっても保身は大切だ。映像ではナチ党への加入を理由に追放された楽員の家族が、「父は政治活動などあまりする人ではなかった」と楽団の処分を批判するところも収録されていて、この問題についてのいろいろな立場がよく描写されている。

あとはなんといっても、戦前、戦中期のベルリンフィルの貴重な映像。ナチ党や軍の高官たちがずらりと列席している演奏会でのベートーヴェン「第九」や、ゲッベルスが楽団の演奏の前に演説するところは貴重品。演奏はみなすばらしい。インテンポでぐいぐい押してくるスタイルは少しも古さを感じさせない。フルトヴェングラー以外に、クナッパーツブッシュクレメンス・クラウスらの指揮も入っている。特に「ティルオイレンシュピーゲル」はよし。