勝利なき戦い 朝鮮戦争

ジョン・トーランド『勝利なき戦い 朝鮮戦争』上下、千早正隆訳、光人社、1997

第二次大戦の戦記で著名なトーランドによる朝鮮戦争史。上下巻で700ページ以上あり、朝鮮戦争の展開を、主要な戦役については俯瞰的に、個々の兵士、戦闘については虫瞰的に、さまざまな視点で記している。多数の地図も収録されていて理解を助けているが、それでも戦争の展開を把握するのは相当面倒。太平洋戦争などとは違って、細かい地名が頭に入っていないので、それがわかりにくさを倍にしている部分もあるが・・・。

表題のとおり、「勝利なき戦い」に戦争が終わった理由は、一読するとよくわかるが、マッカーサーら高級指揮官の判断ミス、さらに米統合参謀本部の見通しの甘さに帰せられる。そもそもアメリカにとって朝鮮での戦争は東側の侵攻を食い止めるという限定的な目的のためのもので、それ以上に戦争を拡大する意思はなかった。また38度線付近をめぐって戦況が膠着してからは、多大な犠牲を払って勝利を得ることよりも、妥協可能な線をめぐって中国、北朝鮮側と交渉することに主な目標がおかれた。戦争が三年にわかった理由は、双方の頑迷さと交渉の困難さによるだろう。

知らなかったわけではないが、改めてマッカーサーという個人の頑迷な性格、現地軍司令部とアメリカ本国政府、軍部の関係の複雑さについては学ぶところが多かった。ただ、通読して思うことはやはりアメリカの立場にたった戦史であって、韓国、中国、北朝鮮の側の事情については相対的に記述が薄い。また開戦にあたっての北朝鮮ソ連、中国の関係の記述についても疑問なところがある。他の文献で補足されるべき点だと思う。