文明崩壊

ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊』上下、楡井浩一訳、草思社、2005

ダイアモンドが前著『銃、病原菌・鉄』で文明の興隆とその要因を取り上げたのに対して、本書で文明崩壊(著者が取り扱う事例はゆっくりした縮小過程ではなく急速な破滅なので、こちらの言葉のほうがよくあてはまる。原題は"Collapse")とその要因を扱う。読んでいて特におもしろいのはイースター島ポリネシアの辺境にあるいくつかの島々、グリーンランドのエピソードだが(単にわたしがこれらの地域についてよく知らなかったので)、他の地域のエピソードからも示唆を受けるところが多い。

簡単に言えば、著者が注目するのは環境破壊と文明崩壊の関係で、増加した人口が環境の生態学的許容量を超えたときに文明崩壊がはじまるというもの。ルワンダのような民族間対立による大量虐殺についても、その背景には人口増加による経済状態の悪化があったとする。

著者は現代では技術進歩による環境変化の規模の拡大、地球規模の相互依存の発展が、文明崩壊の脅威をますます増加させているとする。特に貧しい途上国の生活水準の向上が環境破壊の規模を飛躍的に増大させる危険に注目する。

著者の主張はいちいちもっともなのだが、一般市民=消費者の監視と圧力が企業行動を変化させる可能性については、過大評価をしすぎているのではないだろうか。一般市民は一般的に集合行為をとるインセンティブを欠くだろう。著者はその契機として価値観の変化を重視するが、ここは議論の分かれるところかもしれない。

いずれにしても期待にたがわずとてもおもしろい本だった。あまり読後感がさわやかな本、というわけにはいかないけれど・・・。