北朝鮮からの脱出者たち

石丸次郎『北朝鮮からの脱出者たち』、講談社+α文庫、2006

同著者の『北のサラムたち』、2002を加筆改題したものなので、古い事象も入っているが、脱北者問題について書かれたルポルタージュの中では非常によく書かれた本。主に中国の朝鮮族居住地帯での取材に基づいて書かれ、脱北者自身の事情と彼らを引き取る中国人(主に朝鮮族)側の事情の両方に対して突っ込んだ取材が行われている。

中国政府にとって、また(他の本から知られるところによれば)韓国政府にとっても脱北者問題は相当お荷物になっており、それらの政府が脱北活動を公的に支援したりするような事態が起こる可能性はかなり低いだろうと推測できる。また将来脱北者が大量に日本に来るようなことが起こるとすれば、そのような問題は日本でも起こるだろう。

注文を出すとすれば、せっかく継続的な取材活動をしているのだから、北朝鮮で飢餓が激しかった時期から最近にいたるまでの、北朝鮮内部の経済事情の変化について、大まかな概観を一章を割いて示してほしかった。また、脱北者の増大と中朝ヤミ貿易の増大で「情報鎖国」状態に風穴が開いているという指摘は重要だが、それが北朝鮮の社会的安定にどういう影響を及ぼしているかについても、著者なりのより突っ込んだ分析があればよかった。

しかし脱北者個人にかなり深く関わっている著者の筆には、非常に説得力がある。ジャーナリストの強みがいい意味で出た本といえる。これからも「定点観測」を続けてほしい。