生きてるだけで、愛

『生きてるだけで、愛』本谷有希子、新潮社、2006

鬱小説という話を聞いて読んでみたら、そのとおり。というか、普通のダウン方向の鬱ではなくて、双極性の躁鬱病のほう。冒頭から体中の毛を剃ってみたり、そのくらいはまあいいとして、ビルの屋上で全裸になったりしている。なんだかやたら吐いてるし・・・。ゲロ掃除をする人(本人ではないらしい)はたいへんだなあ。
合コンで知り合った男の家に転がり込むが、セックスも家事もせず、男は仕事が忙しくてろくに家に帰ってこないので、家で鬱々生活。しかしそこに男の前の元彼女が現れて、よりを戻したいので別れろ、出て行けとしつこくつきまとうという、どうしようもない鬱状況。で、主人公は近所のイタリア料理屋で働くことにするが、そこのスタッフがやたら家族的な連帯を強要してきてうっとうしい・・・。
しかし、この鬱は読んでいてこっちも引きずり込まれるような鬱ではなくて、ながめていて動物園の檻の中の動物を見ているような、あまり後味が悪くないほうの鬱だ。読んでいくとこちらは妙に落ち着いてくる。まあ著者は基本的に突き放して書く人なのでそのへんはだいじょうぶ。テンション高そうな人なので、周りの人はたいへんかもしれないが。