信長 KING OF ZIPANGU

信長 KING OF ZIPANGU」、緒方直人主演、田向正健脚本、NHK、1992

1992年のNHK大河ドラマ。ちょっと前にファミリー劇場でもやっていたようだが、時代劇専門チャンネルでまた流れたので、今度はDVDに録画して全部見た。
出来はけっこう悪く言われることが多いが、個人的には傑作だと思う。大河ドラマでの信長は高橋幸治が当たり役で、近年だと「利家とまつ」の渡哲也か。しかし彼らが演じたのは戦国武将として出来上がってしまった信長像であり、そうなるまでの過程は示されない。信長が変わっていく過程を描きながら、信長のさまざまな面を同時に造型できている点で、他のテレビドラマや映画と比べて一等群を抜く出来だと思う。田向正健の脚本の力は大。
親から引き離され、近親者の愛情を知らずに育った少年時代、この頃は自我の強い、変わり者という程度。それが戦争に勝ち、領国を増やす中で敵は増え、回りの人間からの裏切りも増えていくうちに、自己の正しさに関する絶対的な信念と絶対君主としての性格を身につけていく。開明性、世俗性、神経質な性格、繊細さ、いろんなものが同居する性格がだんだんはっきりと現れてくる。基本的に「世間」に自分を合わせるどころか、信念を貫徹するためにはなんでも踏み潰す(言うことを聞かないのは最初の夫人の帰蝶と妹の市だけ)。
しかしそうでいながら自分がその中で育った古いもの(「美しき流れ」という言葉で示される)に対するある種のなつかしさを捨てきれない。こちらを象徴するのが架空の人物で、織田家に仕える神懸りの加納随天。この役を演じる平幹二郎はほんとうに芝居の神様が憑いたように上手い。
信長役の緒方直人は一見線が細い神経質な感じが逆にはまっている。いかにも押しの強そうな俳優はこの脚本には合わないだろう。神経質な印象(やたら掃除掃除とうるさい)と尊大さが同居しているのがいいのだ。
語り手役のルイス・フロイスが信長を少し突き放した目で見ているのもよい。基本的に信長は見ている側が自分を重ねてみることのできるような人間ではないと思う。
大河ドラマは演出家が何人も交代するから、脚本はとりわけ重要。最近のは脚本が目も当てられないのが多いけど、来年の篤姫はどうなるんだろうか・・・。