腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ本谷有希子講談社文庫、2007

映画がおもしろかったので、小説のほうも読んでみた。こちらも非常におもしろい。映画版は「姉」のぶっとび方を強調するために、他の三人「妹」「兄」「兄嫁」の異常さを少し切っているところがあるが(この切り落としは正しいと思う)、小説を読むと他の登場人物も姉に劣らずイカレている。猫の飼い主にいやがらせ電話を続ける妹と、「一人で新婚旅行に行け」といわれてエジプトに行き、養父に人柱にされかかる兄嫁のキャラは非常によい。バラバラなキャラクターがねじまがって同居しているような兄もいい。映画の永瀬正敏はぜひ丸刈りの坊主頭にしてほしかった。終わり、妹に手紙の束をばらまかれた姉が、一ページ分以上、「終わる」で表現されている部分の、図案的な美しさがきれいな締めになっている。とても視覚的なおはなし。