統一コリア

『統一コリア』玄武岩光文社新書、2007

朝鮮半島は、金大中盧武鉉政権の宥和政策で統一に向かう、それも韓国による北朝鮮の吸収合併ではなく、「市民主導の統一」が可能なのだと主張する本。著者は韓国出身で、日本に留学し、現在北大の教員ということ(専門は社会情報学)だが、一読して著者の思考方法を疑わざるを得ない。北朝鮮の現体制の下でどういう形での統一が可能なのかといういちばん肝心な問題には触れないまま。南北相互交流が双方の理解を促せば統一は可能だという楽天的な一般論がのべられるだけである。また韓国内の統一に慎重な保守派については、「近代化ナショナリスト」という名前を冠して、冷戦構造に引きずられた人々として一蹴される。
読んでいくとわかるのだが、要するに著者は韓国の「左翼」である。民族的ナショナリズムアメリカへの反感、「市民社会」に対する楽天的な期待などが組み合わさって、南北統一を構想しているのだが、北朝鮮のことはほとんど知らない。軍事政権下の韓国での反共教育(このくだりはおもしろい)や人権無視の事例が多く示され、暗に「昔の韓国はいまの北朝鮮と同様だった。北朝鮮も時間がたてば変わる」という主張が示唆されている。
しかし、韓国の市民団体が北朝鮮援助を行う際にどういう問題が生じているか、開城工業団地の経営上の問題はどうか、といった現在の南北協力の具体的な問題についてすら、著者の知識は貧弱である。単に反共思想への反発として南北統一を持ち出しているとしか思われない。また北朝鮮の人権問題は、北朝鮮がおかれている敵対的な環境のためであり、環境が改善すれば人権問題も改善していくのだという。北朝鮮の内政についてまったく知識を欠いているので、こういう主張が簡単に出てくる。
どうも誰かの主張に似ていると思っていたら、巻末で著者の恩師が姜尚中だということがわかる。自分の主張に都合の悪い情報を見ないことと、期待と現実を混同する楽観論は師匠譲りのようだ。韓国にこういう人が多いのであれば、盧武鉉の当選や北朝鮮への警戒心の消滅も理解できる。ハンナラ党出身の大統領になっても、こういう人々の考えは変わらないのだろう。