坂の上の雲(八)

司馬遼太郎坂の上の雲』(一)~(八)、文春文庫、1999

結局最後まで読んでみて、前回とは印象が少し変わった。やはり日本海海戦がこの本のハイライトで、この部分が一番いい。司馬遼太郎は断片を細密に描き、それを組み上げて全体として構成のしっかりした作品を書くという意味で名人だと思うが、司馬のそういう技量がいかんなく発揮されているのがこの本だと思う。

宮古島の漁民がロシア艦隊を発見して、必死で通報しようというエピソードがいい。その上で連合艦隊の電文、第二戦隊の別行動、ネボガトフ戦隊の壊滅というそれぞれのエピソードがつみあがって、読み手の集中力を下げない状態で最後までもっていく。秋山兄弟の最期で締めくくる部分が言いがたい余韻になっている。司馬はこの一作に10年かけたというが、それだけのことはある。やはり読んでよかった。

著者あとがきは六巻本のハードカバーで出ていた時期にそれぞれの巻末につけられていたものがそのまま転載されているが、いいものとそうでないものがある。島田謹二の解説は駄文。