竜馬がゆく

司馬遼太郎竜馬がゆく』1巻~8巻、文春文庫(新装版)、1998

なんだかんだで読破するのに一ヶ月近くかかった。しかしこれくらいおもしろい小説はそうはない。司馬遼太郎の一番の傑作というだけのことはある。これに比べると『坂の上の雲』は小説の出来という点では一歩ゆずるだろう。とにかく主人公のキャラがこれだけすっくと立っている話はそうはない。なにをしても豪快かつ痛快。女性にはモテるが恬淡としているところがまたよし。またその女性たちのキャラがそれぞれに違い(みな女っぽい女ではないという点では共通だけど)、みな彩りが豊か。勝海舟陸奥陽之助、寝待の藤兵衛などの脇キャラもいい。
この本を読んでいると、明治維新はほとんど竜馬一人で切り回したような錯覚に陥る。今日の竜馬の国民的人気がほとんどこの本によって築かれたというのもなっとく。文中に、長崎の亀山社中のあった建物が取り壊されるエピソードが出ているが、この本が人気がでるまでは竜馬関係の史跡はその程度の扱いしか受けていなかったことにあらためて感慨を覚える。まあ歴史上の人物としての「坂本龍馬」と小説中の竜馬のあいだの距離についてここでいっても仕方ないのだが、こういうふうにして人間は偉人になっていくんだなあ。