貧困の克服

アマルティア・セン(大石りら訳)『貧困の克服』、集英社新書、2002

センの講演を4つ集めたもの。経済発展と民主主義に関するセンの基本的な立場がよくわかる。センの経済発展に関する関心が、人間に対する経済的エンタイトルメントを保障することを通じ、最も貧しい者の立場を保護することに向けられていることが理解できる。つまりセンの立場はある意味でロールズに近いところがある(訳者の紹介にもあるように、センはロールズの議論そのものに対しては厳しい批判を行っているが)。その同じ関心から、民主主義にも強い共感をよせている。巻末に訳者によるセンの生涯と思想に関する紹介があり、これも非常に有益。体系的でない本書の内容をよく補っている。
一言言えば、センは民主主義が「アジア的価値観」と矛盾するものではないとはいっているものの、民主主義が他の価値観と対立する場合であってもなお、民主主義の原理が優先されるべきであることを十分には論証できていないと思うのだが・・・