出世ミミズ

アーサー・ビナード『出世ミミズ』、集英社文庫、2006

アメリカ出身、イタリア語、タミル語、日本語を修めて、中原中也賞講談社エッセイ賞をとった著者によるエッセイ集。こういう人に対して日本語をほめてはいけないのだろうが、著者の日本語学習の努力の過程がそこかしこに出ていて、他言語を習得できる人というのはこういう努力を細かくやっているものなのかということを感じさせられる。特に「七人の侍」で日本語を学ぼうとしたくだりには脱帽。まあ七人の侍の台詞は日本人が聞いても何をいっているのか、よく聞き取れない。
エッセイのひとつひとつはごく短い「掌編」だが、それぞれにきちんとオチがついている(これは立川談四楼の解説にもあるが)。そのオチが複数の言語をものにした人ならではの気の利いたもの。フレンチフライのFrenchに、「料理の下ごしらえ」という意味があったことはこれで初めて知った。個人的には最後のエッセイにあるような政治的な発言は気に入らないが、それも著者のテイストの一部といえばいえる。