アルジャジーラ 報道の戦争

ヒュー・マイルズ(河野純治訳)『アルジャジーラ 報道の戦争』、光文社、2005

中東の衛星放送局アルジャジーラの歴史についての本。報道の戦争という表題は原題にはないが、非常に適切なタイトルで、競争相手のほかの放送局との戦争、取材対象との戦争、戦争報道についての戦争、といった意味が兼ねられている。読み進めていくと、アルジャジーラが「アラブ寄り」「反米的」「反西欧的」という評価は誤解で、彼らが報道の責任ということに非常に真剣に取り組んでいる人々であることがよくわかる。カタール政府の支援による部分が大きいとはいえ、そうした試みは世界のほかの地域と同じく中東においても、困難な課題であることを実感する。特にテロ事件以後「反テロ」のスローガンが抵抗できない力をもっている状態で、「公正な報道」を追求する彼らの努力は並大抵のものではない。アルジャジーラはたびたび「中東のCNN」と呼ばれるが、この本を読んでいるとそういう形容はある意味アルジャジーラの地位を不当におとしめているのではないかという印象すら抱かせる。