伊藤博文と安重根

佐木隆三伊藤博文安重根』、文藝春秋、1992

伊藤博文暗殺事件を公判記録に基づいて再構成したドキュメンタリーノベル。伊藤側と安側の両方から暗殺事件にいたる過程をていねいに描いている。
日露協商の再強化を図る伊藤に対して、安重根は確かに剛直、廉潔の人だが、いかにも視野が狭い人物という印象は免れない。テロリストに対して視野の広さを求めるということがそもそも無理なことだとは思うが。大政治家としてやむを得ないこととはいえ、こういう人物に暗殺された伊藤の悲劇が淡々とした描写の中から浮かび上がってくる。伊藤暗殺に対するコメントとしては、大隈重信の一歩距離をおいたものがおもしろい。
著者の筆は余計な描写を抑えて出来事を追っていて、好感がもてる。