男子の本懐

城山三郎『男子の本懐』、新潮文庫、1983

金輸出解禁政策をめぐる浜口雄幸井上準之助の生涯を描いた城山三郎の代表作。しかし一読してみて、「そんなに傑作といわれるような作品なのか」という疑問を禁じえない。確かに浜口と井上の伝記小説としては、それなりにすっきりまとまっていて、一気に読める。狙撃されてからの浜口の死までのくだり、井上の暗殺でさっと物語を閉じるあたりは、上手に書けていると思うが・・・。
何が足りないのかというと、主題になっている金解禁政策そのものについての十分な説明が不足している。この本の書き方では、犬養内閣の金輸出再禁止は単に投機筋を儲けさせ、インフレを煽っただけのようなことになっているが、仮にも経済小説としては、それでいいのか?そもそも世界恐慌下で金輸出解禁を強行することにどういう得失があったのか?あくまで伝記小説だから、そこはなくてもよい、というわけにはいかないと思うのだが・・・。