千一夜物語1

(佐藤正彰訳)『千一夜物語1』、ちくま文庫、1988

千一夜物語の全訳本。フランス語訳からの重訳だが、訳語や注は十分配慮されており、アラブの香りを十分味わうことができる。全10巻のうちまだ1巻しか読んでいないのだが、基本的に「大人用の娯楽読み物」だということはよくわかった。まあお妃様が王様に寝物語を話すという設定からして当然なのだが、内容は、エロ、金、冒険の三要素をいろいろなやり方で組み合わせたもの。エロについては古めかしいながら、話によっては細かく描写があって、昔の人はこれでけっこう楽しめたのだろう。最後は必ず美人の奥さんと大枚の財産をもらってハッピーエンドというあたりもお約束。
しかし昔のおとぎ話なので、せむし、びっこ、かたわは頻出するし(これらの言葉が問題なく出版できることに安心した)、泥棒は手首を切られ、拝火教徒は容赦なく皆殺し。イスラム教のお話だが、酒もばんばん飲んでいる(さすがにカリフは飲んでいないが)。全体のおおらかな雰囲気がとてもいい。もしかすると厳格なイスラム国家ではこれは出版禁止かもしれない。読んだ中で知っていたのは「漁師と魔神の物語」だけだが、きっとこれから知ってる話もいろいろ出てくるだろう。ちょっと楽しみ。