紛争と難民 緒方貞子の回想

緒方貞子『紛争と難民 緒方貞子の回想』、集英社、2006

緒方貞子の国連難民高等弁務官時代の回顧録。英語オリジナル版の原題が、The Turbulent Decadeとなっているとおり、この時期は大量の難民危機が続出した期間で、著者の困難さが文字からも伝わってくるようだ。回顧録とはいえ、学者出身の著者のことだけあって、内容は非常に分析的なもの。クルド、バルカン危機、アフリカ大湖地域の危機、アフガンの4つのケースが取り上げられ、難民危機の発生の原因とそれに対するUNHCRおよび国連安保理や主要大国などの対応が描かれ、危機を深化させ、あるいは解決を困難なものにした原因が考察されている。著者のいうように、難民問題は政治問題であり、人道的対処は必要なものではあるが、それ自体が難民問題を解決するものではない、という著者の立場は分析を通じても一貫している。UNHCRの活動範囲の広さとその困難さは驚くべきもので、現地での直接的な難民への緊急援助にとどまらず、難民の帰還、定着の支援、安全の確保、ロジスティックス、また何よりも重要な当事者や国連、主要大国への政治交渉など、危機のすべての局面にわたって活動することが求められ、しかもしばしば支援は受けられないばかりか、関係者や関係国からの非難にさらされる。難民問題の当事者の記録として、また現場に最も近い分析者の記録として、非常に貴重な本。