国際社会論 アナーキカル・ソサイエティ

ヘドリー・ブル(臼杵英一訳)『国際社会論 アナーキカル・ソサイエティ』、岩波書店、2000

アナーキーである国際システムにも「秩序」があり、そういう意味で「国際社会」が確かに存在すると主張するブルの古典的著作。国際政治学におけるホッブズ的伝統とグロティウス的伝統の間で緻密な議論を展開している。オリジナルの初版は1977年に出ているので、それからもう30年近くを経ているのだが、冷戦後の今日でも議論の骨子の部分は十分生き残れる強さをもっている。自分としては、かなりリアリスト的な線に近いところで、「強い」リアリストの議論を修正しているように感じるのだが、ホフマンの序文によれば、これでもリアリストから見れば「過度にグロティウス的」と感じられるのだそうだ。
翻訳は非常によい。文章もきちんとしていてかつわかりやすいし、訳注もかゆいところに手が届くように、しかも手間をかけて付されている。古典にふさわしい力の入った訳といえる。