薬指の標本

小川洋子薬指の標本』、新潮社、1994

小川洋子の中篇。今度映画になったというので題は知っていたが、図書館にたまたまあったので借りてきた。サイダー工場に勤めていて、事故で左の薬指の先端の肉片を切り取られた「わたし」(女)が、「標本室」の事務員をことになる。その標本室というのは持ち込まれるものを何でも標本にして保管する場所で、標本をつくっている「弟子丸氏」と「わたし」は二人で働く、そのうち「わたし」は弟子丸氏に地下の浴室に連れて行かれて裸にされるような関係になり(セックスしたとは書いていない)、さらには「わたし」自身が弟子丸氏の標本にされることを望むようになる・・・というような、ちょっと怪奇譚めいたお話。わりとさらっと読める。これを映画にしたいという気持ちはよくわからないけど・・・。
自分としては併録されている「六角形の小部屋」の方が気に入っている。こちらはどこからともなく集まってくる客が、中にはいってただ語りかけるための場所「語り小部屋」がふっと現れて、いつのまにかなくなっていくという話。語り小部屋のはかなさがなんともいえずいい味だしてるお話。