オルシニア国物語

アーシュラ・K・ル・グィン峯岸久訳)『オルシニア国物語』、ハヤカワ文庫、1988

ル・グィンのごく初期の作品を含めた連作短編集。東欧のどこかにある架空の国オルシニアでの出来事が、年代はバラバラに展開される。自分として特に気に入ったのは、盲目の男との結婚と周りの人々の話「夜の会話」、第二次大戦直前の無名の作曲家の話「音楽によせて」、プライドの高い姫君と後に英雄になる男の話「モーゲの姫君」あたり。SFでもなくファンタジーでもない作品だが、「音楽によせて」を含めた何篇かは、はじめ出版社に突っ返されたのだという。理由は「題材が現実離れしていてピンとこない」というものだったという。確かに、簡単に入っていける話ではないものがいくつか含まれていて、自分にもわけがわからない話は数編あった。ル・グィンの城の門は誰にでも開かれているわけではないということなのだろう。しかし、自由、プライド、愛情、人間の尊厳的なもの、といった要素をこの話はしっかりつかんでいる。