ごくらくちんみ

杉浦日向子『ごくらくちんみ』、新潮文庫、2006

酒肴になる珍味を題材にした掌編小説集。恥ずかしいことながら、この本を読んではじめて掌編小説というのが何かということを知った。原稿用紙三枚あまり(1300字)というのは書きやすいボリュームなのかどうかはよくわからないが、どのお話もわりときちんとまとまっている。毎回ひとつの珍味がネタになっているのだが、これに出てくる珍味のうちで自分が食べたことがあるものは半分もないと思う。どれも非常においしそうに書けていて、読んだらメールオーダーで注文したくなるものばかり(実際に発売元と連絡先もついている)。
しかし、この本の大事なところは、なんといってもこれが著者の遺作だということだろう。杉浦日向子が亡くなってからもう一年以上になるんだねぇ。事情は松田哲夫の解説に書いてあるのだが、そのことをわかって読むと、細かい文章の端々になんともせつないものを感じる。鳥のまさに死なんとするや、人のまさに死なんとするや・・・ということか。