吉田茂とその時代

ジョン・ダワー(大窪原二訳)『吉田茂とその時代』上・下、TBSブリタニカ、1981

吉田茂浩瀚な評伝。著者の意図は、吉田茂の生涯を戦前の外交官生活と戦後の首相時代との連続性に焦点をあてて描き出すことにより、戦前の帝国日本と戦後の民主国家日本の連続性を強調することにある。その点、著者の意図はある程度成功している。特に戦前期の吉田を親英米リベラル派と単純に理解しているような向きに対しては、吉田の「帝国主義」的政策とその実りなき結末は非常に教育的であるように思われる。しかし、それに比べると戦後の吉田の業績に関する部分は若干精彩を欠く。著者の関心はほとんど再軍備憲法問題に集中していて、その部分は非常に細かいが、吉田の戦後改革に対する態度はかなりあっさりと流されている。戦前戦後にわたる吉田の「一貫性」を強調したいのであれば、戦後の吉田の態度の多面性にもっと注目があてられるべきではないだろうか。