最後の海軍大将・井上成美

宮野澄『最後の海軍大将・井上成美』、文春文庫、1985

敗戦直前に海軍大将になり、それまでの間、主に海軍軍政に活躍した井上成美の伝記。戦争末期に井上が海軍兵学校校長になるまでの記述にはどうも精彩がない。阿川弘之の「米内光政」と一部がかぶっており(もちろん直接の引用箇所にはそれと明記されているが)、阿川の本を読んでいるとその部分は退屈である。これは著者と阿川弘之の筆力の差もあるからどうしようもない。むしろこの本がおもしろいところは、海軍兵学校校長から、次官を経て、戦後の隠棲生活を描いている部分である。長命な人で1975年まで生きていたが、生活的には落魄し、兵学校校長時代の生徒たちの力がなくては暮らしが成り立たないような状況だったという(大将まで勤めたのだから、軍人恩給はそれなりに出ていたはずだと思うが)。近所の子供に英語を教えて送った後半生こそ、この人の本来の部分が現れていると思える。最後に載せられている青年士官教育資料、特に読書のところは、井上の人柄がよく出ている。