薬でうつは治るのか?

片田珠美『薬でうつは治るのか?』、洋泉社新書y、2006

精神科医の著者が、新型の抗うつ薬による薬物療法中心、マニュアル偏重の診断といった精神治療の現状に疑問を投げかける本。向精神薬の発見から、その後の論争を経て現在の「ハッピードラッグ」の流行までの精神医療のにおける薬物療法の歴史が簡潔に述べられていて、素人でも多少根気があればわかるように書かれているので、そういう意味で役に立つ。また病気かどうかが明確でない状態の患者に対して、マニュアルに基づいて安易に抗うつ薬を投与するやり方を批判する著者の立場は理解できる。ただ疑問に思うのは、著者がいうような治癒、つまり苦悩を受け入れられる、苦悩と共存できる状態になることを患者自身は果たして望んでいるのかどうかということだ。安楽を求めているのは医師だけでなく、患者自身もまたそうではないのだろうか。そういう意味では、抗うつ薬の処方にインフォームドコンセントの必要を力説する著者の立場も(確かにそれは必要だとは思うが)、弱いものに感じる。患者はあまり選択肢を求めていないのではないだろうか。