米内光政

阿川弘之『米内光政』、新潮文庫、1978

首相、終戦時の、そして最後の海軍大臣を務めた米内光政の伝記。さすがにこれは対象が有名人で、書く材料も豊富にそろっており、戦後まもなく亡くなった人物の伝記ではあるが、米内光政の人物像が立体的にきちんと描きだされている。後はやはり著者の筆力と海軍に対する愛情。これがあるために本の内容が非常に光沢をもったものになっている。米内光政は結局のところ、太平洋戦争を阻止することができず、また終戦時の工作も原爆投下、ソ連参戦まで可能にはならなかったわけだが、それは戦争機械というものがいったん動き出すと、それを止めることはいかに困難かということを示しているのだと思う。米内が海軍大臣でなければ、45年8月15日の降伏発表すら行えなかったかもしれないのだ。ある意味、歴史における個人の力の小ささをしめす材料でもあるだろう。