南天

東郷隆『南天』、講談社、1995

東郷隆は上手い小説家だ。見慣れない山伏の話から忠臣蔵の話、それも大野九郎兵衛のエピソードにもっていき、それが四十七士とは別に吉良を討とうとしていたという表題作は、よくできた時代劇映画を見せられているようだ。小説をほめるのに映画を持ち出すのは邪道かもしれないが、著者の小説はそれくらい描写が細かく、映像が眼前に浮かぶほどの緻密さがある。
しかもおそろしく博学で考証が細かい。「銃隊」などほとんど注釈でできあがっている小説のようなもの。それがただ知識を見せるだけでなくて、ちゃんとしたお話になっている。緻密で勉強になり、それでいておもしろい話といういいことずくめの小説。