プリンシプルのない日本

白洲次郎『プリンシプルのない日本』、新潮文庫、2006

最近この人の名前をよく見るので、つい手にとってしまった。著者は、戦前から経済人として吉田茂牧野伸顕の人脈に連なり、戦時中は「日本は必ず負ける」と断言して百姓生活、戦後は吉田の引きで終戦連絡事務局参与、のち次長として占領軍との折衝を一貫して担当した。のち貿易庁長官としてエネルギー問題や通産省への改組問題に関わり、その後官を退いて東北電力会長を務めたという人物である。これが唯一の自著だということだが、長い文章は残さない人だったようで、内容はほとんどすべて時論である(最後に友人の今日出海河上徹太郎との鼎談がついている)。だいたい占領が終わってから5年くらいの時期に集中的に書かれているようだ。

文章はどれも直球。無駄な言葉が一切ない。表題の通り、原則に非常に忠実な立場から書かれており、民主制とは何かということについての透徹した理解が伺える。時論だから、その時の状況や現役の人物に対する批評なのだが、書き方が非常に手厳しい。著者がいろんな人から煙たがられ、悪口をいわれたというのも理解できる。しかし、爽快な感じのする文章で、直言であっても嫌味なところはまったくない。人格がにじみ出ている文章である。戦後を支えた人たちにはこういう人がいたということは、記憶されるべきことだと思う。