イッツ・オンリー・トーク

絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』、文春文庫、2006

やわらかい生活」の原作本ということで、思わず手にとってしまいました。なるほど原作はこういう話だったわけね。映画は祥一(豊川悦司の役)を中心に描いているので、その点でよくいえばほのぼの、悪く言えばウェットな部分が出ているが(その分、終盤で登場人物を次々と切っていくことでカバーしている。これはこれでアリ)、原作では祥一、本間、痴漢、安田といった主人公をめぐる登場人物はほぼ等価に、しかもかなりドライにしか描かれていない。従って作品全体の印象もとてもドライな感じ。しかし、これがデビュー作というのはやはり大したもの。巧い。

併録の「第七障害」も巧い。こちらは少しドライではないが、いい意味で男らしいすっきりした感じの話。著者はタイトルのつけ方もいい。しばらくいろいろ探して読んでみようと思う。