国民の天皇

ケネス・ルオフ(高橋紘監修、木村剛久、福島睦男訳)『国民の天皇 戦後日本の民主主義と天皇制』、共同通信社、2003

戦後の天皇制と日本社会との関係についての本。憲法皇室典範といった制度的な側面から、内奏のような非公式な政治的役割、戦争責任問題、文化的役割、大衆社会天皇といった主要な論点についてひととおり概観されている。個別の問題については日本でもいろいろ書かれているが、包括的に、かつ日本社会の天皇に対するバイアスから距離をとって書かれている本という意味で貴重なもの。ただ、著者が「創られた伝統」の議論に沿うあまり、なぜ天皇の役割が敗戦のような大きな社会変動を経たあとも重要さを保っているかについて、やや筆のたりない点は残念。それから通常、こういう本なら訳者あとがきがつき、解題と著者紹介がされて当然だと思うが(監修者、訳者は著者の個人的な知己でもある)、なぜそれがないのだろう。