技術中将の日米戦争

石井正紀『技術中将の日米戦争』、光人社NF文庫、2006

工兵出身で陸軍中将まで昇進し、陸軍の飛行場設営や燃料問題を管掌していた軍人、秋山徳三郎の伝記。軍のテクノクラートとして活動し、派手な戦歴がない地味な軍人の記録である。しかし、陸軍の昇進システム、技術教育、軍の建設作業の機械化といった問題について、いろいろとおもしろい情報を提供している。秋山は士官学校卒業後、東京帝大に員外学生の資格で入学、卒業、その後イギリスの工兵学校に入学して、築城だけでなく、化学、航空機といった分野を学んだ軍の技術エリートで、南洋のジャングル地帯での飛行場の急速設営をまかされたが、1943年になってから必要に気付いてブルドーザの試作からはじめるような泥縄式のやり方はまったく戦局に対応できず、建設という戦場でも日本は圧倒的な敗北に終わる。細かいところがいろいろとおもしろく、玉音放送の三日後にはもう下士官が勝手に軍の物資を持ち出しに走りだしているような、陸軍の崩壊の姿や、職探しに走り回り、妻や子供の死で打撃を受けながら戦後は建設業で一家をなす秋山の戦後の生活が興味をそそる。

しかし1969年に亡くなり、子供はまだ生きているような人であっても伝記を書くことがここまで大変なことになっているということに驚く。過去は急速に消え去るものなのだ。