宣戦布告

麻生幾『宣戦布告』上・下、講談社文庫、2001

これも今更という本だけど、読んだ。映画のほうは見ていない。たしかに小説としてはおもしろい。が、下手。細かいことを書き込みすぎている。北朝鮮のコマンドが攻めてくるということでは同じ『半島を出よ』と比べて、明らかに下手。こちらは著者の小説としての処女作ということなので、それを比べるのはかわいそうかもしれないが・・・。細かいことを書いていることが問題なのではなくて、どうでもいい部分で細かすぎるのは読者の注意を削ぐ。この点は著者の『ZERO』でもあんまり直ってない。それに細かいことついでにいうと、細かいことでいろいろ間違えている。文庫版は「加筆完全版」とあるのに直っていない。首相を日本の「元首」だといっているところとか、北朝鮮内部での金正日の呼び方が「後継者」となっていることとか。

一番まずいと思うのは、北朝鮮が何のためにコマンドを敦賀原発に侵入させようとしているのかが最後までわからないことと、日本側の政治家と高級官僚がみなデクノボーとしてしか描かれていないこと。前者については、お話全部の前提になるようなことが最後の最後までわからないのでは、ストーリーが成り立たない。日本の原発を乗っ取れたとして、それで何をどうしようというのかまったくわからないのでは、話のリアリティも何もない。後者については、戦っている相手の一方をまるで無能にしてしまったのでは、話がつまらなくなる。日本大勝利に終わる架空戦記ものをちょうど逆にしたのと同じ。